戦場でのクリスマスの出来事です。まだ第一次世界大戦が始まったばかりでした。イギリス軍とドイツ軍は、両者共にフランスの平野に何キロも続く溝を掘ってにらみ合っていました。兵士はこの溝から機関銃や迫撃砲を相手に打ち込んでいました。機関銃の発射音が途絶えたときには、敵軍の塹壕から、弾丸を詰める音が聞こえるほどの距離でした。クリスマス・イブの夜もふけ、降り続いたみぞれもこやみになり、気温はぐんぐん下がっていきました。見張りのイギリス兵は、中間危険地帯の向こうから、いつもとは違う音が聞こえるのに気付きました。ドイツ軍の塹壕で、誰かが歌っているのです。それは「きよしこの夜」のメロディーです。彼はそっとメロディを口ずさみ始めます。そして気がつくと、英語で、しかも大声でそれを歌っていました。有刺鉄線の向こう側にいる敵兵とのドイツ語と英語の何とも奇妙な二重唱でした。やがて、ドイツ側でもイギリス側でも、次々と歌声に加わる兵士が増えていきました。砲撃戦の傷跡のすさまじいフランスの平原に、さまざまな声が入り混じって流れました。クリスマスの朝が明けると、それぞれのことばで書かれた「メリー・クリスマス」のサインが、高々と掲げられていました。恐怖にも勝る、ある強い力に引かれて、兵士は一人、また一人と武器を置いて、有刺鉄線の下をくぐり、塹壕の間の危険地域に出て行きました。見る見るうちに数が増え、大勢のイギリス兵とドイツ兵がクリスマスの朝の光の中で顔を合わせたのです。しかし、クリスマスの休戦もここまで、事態を憂慮した高官たちが、兵士達を塹壕に呼び戻したのです。そして発砲が再開されました。両国共に当時の若者の世代の多くが失われました。しかし、生き延びた者の心には、前線で迎えた大戦初めの、あのクリスマスの記憶が残りました。すなわち、クリスマスの日の数時間、彼らにはイギリス国王でも、ドイツ皇帝でもない、仕えるべき別の君主がいたということです。
 平和の君と呼ばれる方に堅く立つなら、あらゆる危機の中でも平和を創り出すことができるのです。そのお方の名前は、イエス・キリストです。あなたの人生に豊かな平安がありますように。